『蒼穹の昴』2巻の愚痴、パート2
09 03, 2014
『蒼穹の昴』2巻の感想、という名の愚痴2号。
今回は主人公補正マシマシ感についてです。今回の内容は個人の好みというかさじ加減の問題であって、「オレはこのくらいが好き」感もマシマシであります。完全に愚痴だコレ。
ネタバレを含むので未読の方はご注意ください。では、いつものごとく追記へどうぞ。
『蒼穹の昴』2巻での主人公補正はだいたい以下のような感じ(?)
・100%当たる占いばあさんから「天下の宝物をあまねく手中に収める」と予言をいただく
・皇帝や西太后にすら嘘をつかなかった占いばあさんが、ただ1度、主人公にだけ偽りの占いをたてる
・変えようがないはずの星の巡り(占い結果)が、主人公だけ変化する
・広い都を宛てもなくさまようなか、引退した宦官に拾われる
・↑の宦官に鍛えられた結果、まれに見る優秀な見習いとして(そこそこ)有名人に
・演劇の題目を無茶ぶりされたところ、下っぱなはずの主人公だけが劇団中で唯一その演目の内容を暗記していた
・(同)劇団中で唯一、殺陣や曲芸など難易度の高いアクロバットを習得していた
・↑の功績で西太后の目にとまり、わずか10年ほどでサクサクと出世
書き出してみるとけっこうな立身出世ストーリーである。ちなみに当然のごとくイケメンであり、一挙手一投足からにじみ出る人柄(オーラ)があるそうな。すげえ。
このうち、気になったのは占い婆さんのくだりと演劇で目に留まるくだり。まずは占い婆さんのほうから書く。
物語の世界にも(現実とは違うかもしれないけれど)なんらかの条理があって、登場人物たちはその条理のうえで行動している。『蒼穹の昴』なら、中国全土を統べる皇帝がいて、科挙や宦官のシステムがあり、国家運営の中枢に食い込む挙人(科挙に合格したいわゆる国家公務員)は絶大な権力を持っていて……などなど。
もし仮に挙人が「なんとなく気に食わないから」くらいの理由でその辺の人をボコボコにしても、たぶんほとんどお咎めは受けないだろう。高級官僚が飽食している一方で流民たちが餓死寸前でも、待遇の差を不思議に思うことはないだろう。(運命を恨むことはあるかもしれないけれど) なぜならこの物語の世界はそういうシステムで動いているからだ。
で、個人的にそういう「世界のしくみ」は主人公補正(ご都合主義)の上位にくるものだと思う。「こういう行動させたいな」と「こういう行動したら不自然だよな」が競合したら、その行動をさせない。もしくはうまい言い訳か逃げ道をつくる。かくかくしかじかな理由があったから(なりゆきで)こういう行動をとったんだ、と。もちろん周囲はドン引きするので、そのフォローアップも必要となる。
世界のルールをふっ飛ばした結果は奇跡と呼ばれ、ここ一番の使いどころを間違えるとまぁ白ける。
※「そのときふしぎなことが起こった!」が許容される雰囲気っていうか条件も気になるけど、とりあえず放置。
占い婆さんのご神託も、この物語における「世界のルール」に含まれる。婆さんの予言は100%当たり、たとえ期待はずれな内容であっても包み隠さず相手に公開する。実際に作中で「儂に嘘はつけんもの」と言っており(「嘘はつかん」ではなく)、ルール自体が人格をもったキャラだともみなせる。
そんな占い婆さんがただ1度主人公にだけ嘘をついたと。嘘をついた理由は「主人公がかわいすぎてひどい予言するのをためらったから」。
これは、主人公補正じゃなくて、ご都合主義だろう。だって時の皇帝にすら早死にの予言をぶちかましたというのに。これまで占ってきた人々も数十年の職業倫理もすべて「ガキんちょのかわいさ」以下か。大したギャグである。
続いて、演劇で見習いから主役に大抜擢される部分について。
話の流れでいうと、都で拾われて3年くらい鍛えたあと宮中に出仕、色々な雑用をしつつ端役で舞台に出る。あるとき西太后から演目の無茶ぶりをされて、夜逃げしようかレベルでgkbrしてたら、たまたま下っ端の主人公だけがその演目を完全マスターしていた……といったところ。結局、主人公氏の演技のおかげで舞台は大成功だったそうな。
この話で気に食わないのは、主人公補正で努力の成果もメガ盛りになっている点。
運や不運は人の力じゃどうにもならない。不確定要素や人との関係性や、それこそ占いのように「天の配剤」によって決まる。だから主人公補正やご都合主義の入り込む余地がある。ウンガイイナー。
一方、努力は人の手によるもので、だいたいかけた手間に応じた成果が出る。えらいひと曰く「学問に王道なし」とかなんとか。作者の都合で一気に成果を出したいときには、やっぱりそれなりの理由や装置がいる。ドラゴンボールなら「精神と時の部屋」とか。あと「強いヤツを食べてパワーを吸収する」とか。
この主人公の場合、確かに下積みの3年間で相当な努力をした描写はあるのだけど、それでも一気に成長しすぎだと思う。個人的には。
この時代、この物語において「皇帝御用達」というのは超一流の証である。宮中お抱えの劇団なら中国全土でもトップクラスの役者ばかりが集まっているはずだ。もちろん日々の鍛錬も怠らないだろう。
主人公はそんなベテランのプロたちを差し置いて、誰にもマネできない大技を披露したわけだ。しかも、何も知らないところから始めてたった3,4年ほどで。いくらなんでも成長しすぎだろう。
この物語では、主人公以外のキャラの時が止まってるんじゃないか。その辺に配置されている「名無しキャラ」たちは物語開始時のまま能力が固定されてしまう。あとは決まったルーチンワークを繰り返す歯車となる。そこを、主要キャラたちがぐんぐん成長して追い抜いていく。そりゃあ出世もするだろう。異例の若さで大抜擢もされるだろう。その他の部分が完全に停滞しているんだから。
主人公の努力が星の巡りをも動かしてこれほどの成果を挙げるなら、史了あんちゃんの兄上あたりは本当に浮かばれない。科挙合格だけを追い求めてただひたすら勉強してきたのに弟に先を越され、あげく占い婆さんには「一生受からない」予言を投げられるという。神(作者)に愛されなかったばっかりに。
※浅田次郎さんは「冴えないモブを比較対象にして思いっきり主要キャラを持ち上げる」という手法をよく使うらしい。この兄上も比較用に配置されたキャラの1人なので、踏み台となって史了あんちゃんの凄さを際立たせられればそれで十分である。だからまぁ、この難癖は本当に難癖以外のなにものでもない。
今回は主人公補正マシマシ感についてです。今回の内容は個人の好みというかさじ加減の問題であって、「オレはこのくらいが好き」感もマシマシであります。完全に愚痴だコレ。
ネタバレを含むので未読の方はご注意ください。では、いつものごとく追記へどうぞ。
◯
『蒼穹の昴』2巻での主人公補正はだいたい以下のような感じ(?)
・100%当たる占いばあさんから「天下の宝物をあまねく手中に収める」と予言をいただく
・皇帝や西太后にすら嘘をつかなかった占いばあさんが、ただ1度、主人公にだけ偽りの占いをたてる
・変えようがないはずの星の巡り(占い結果)が、主人公だけ変化する
・広い都を宛てもなくさまようなか、引退した宦官に拾われる
・↑の宦官に鍛えられた結果、まれに見る優秀な見習いとして(そこそこ)有名人に
・演劇の題目を無茶ぶりされたところ、下っぱなはずの主人公だけが劇団中で唯一その演目の内容を暗記していた
・(同)劇団中で唯一、殺陣や曲芸など難易度の高いアクロバットを習得していた
・↑の功績で西太后の目にとまり、わずか10年ほどでサクサクと出世
書き出してみるとけっこうな立身出世ストーリーである。ちなみに当然のごとくイケメンであり、一挙手一投足からにじみ出る人柄(オーラ)があるそうな。すげえ。
このうち、気になったのは占い婆さんのくだりと演劇で目に留まるくだり。まずは占い婆さんのほうから書く。
◯
物語の世界にも(現実とは違うかもしれないけれど)なんらかの条理があって、登場人物たちはその条理のうえで行動している。『蒼穹の昴』なら、中国全土を統べる皇帝がいて、科挙や宦官のシステムがあり、国家運営の中枢に食い込む挙人(科挙に合格したいわゆる国家公務員)は絶大な権力を持っていて……などなど。
もし仮に挙人が「なんとなく気に食わないから」くらいの理由でその辺の人をボコボコにしても、たぶんほとんどお咎めは受けないだろう。高級官僚が飽食している一方で流民たちが餓死寸前でも、待遇の差を不思議に思うことはないだろう。(運命を恨むことはあるかもしれないけれど) なぜならこの物語の世界はそういうシステムで動いているからだ。
で、個人的にそういう「世界のしくみ」は主人公補正(ご都合主義)の上位にくるものだと思う。「こういう行動させたいな」と「こういう行動したら不自然だよな」が競合したら、その行動をさせない。もしくはうまい言い訳か逃げ道をつくる。かくかくしかじかな理由があったから(なりゆきで)こういう行動をとったんだ、と。もちろん周囲はドン引きするので、そのフォローアップも必要となる。
世界のルールをふっ飛ばした結果は奇跡と呼ばれ、ここ一番の使いどころを間違えるとまぁ白ける。
※「そのときふしぎなことが起こった!」が許容される雰囲気っていうか条件も気になるけど、とりあえず放置。
占い婆さんのご神託も、この物語における「世界のルール」に含まれる。婆さんの予言は100%当たり、たとえ期待はずれな内容であっても包み隠さず相手に公開する。実際に作中で「儂に嘘はつけんもの」と言っており(「嘘はつかん」ではなく)、ルール自体が人格をもったキャラだともみなせる。
そんな占い婆さんがただ1度主人公にだけ嘘をついたと。嘘をついた理由は「主人公がかわいすぎてひどい予言するのをためらったから」。
これは、主人公補正じゃなくて、ご都合主義だろう。だって時の皇帝にすら早死にの予言をぶちかましたというのに。これまで占ってきた人々も数十年の職業倫理もすべて「ガキんちょのかわいさ」以下か。大したギャグである。
◯
続いて、演劇で見習いから主役に大抜擢される部分について。
話の流れでいうと、都で拾われて3年くらい鍛えたあと宮中に出仕、色々な雑用をしつつ端役で舞台に出る。あるとき西太后から演目の無茶ぶりをされて、夜逃げしようかレベルでgkbrしてたら、たまたま下っ端の主人公だけがその演目を完全マスターしていた……といったところ。結局、主人公氏の演技のおかげで舞台は大成功だったそうな。
この話で気に食わないのは、主人公補正で努力の成果もメガ盛りになっている点。
運や不運は人の力じゃどうにもならない。不確定要素や人との関係性や、それこそ占いのように「天の配剤」によって決まる。だから主人公補正やご都合主義の入り込む余地がある。ウンガイイナー。
一方、努力は人の手によるもので、だいたいかけた手間に応じた成果が出る。えらいひと曰く「学問に王道なし」とかなんとか。作者の都合で一気に成果を出したいときには、やっぱりそれなりの理由や装置がいる。ドラゴンボールなら「精神と時の部屋」とか。あと「強いヤツを食べてパワーを吸収する」とか。
この主人公の場合、確かに下積みの3年間で相当な努力をした描写はあるのだけど、それでも一気に成長しすぎだと思う。個人的には。
この時代、この物語において「皇帝御用達」というのは超一流の証である。宮中お抱えの劇団なら中国全土でもトップクラスの役者ばかりが集まっているはずだ。もちろん日々の鍛錬も怠らないだろう。
主人公はそんなベテランのプロたちを差し置いて、誰にもマネできない大技を披露したわけだ。しかも、何も知らないところから始めてたった3,4年ほどで。いくらなんでも成長しすぎだろう。
この物語では、主人公以外のキャラの時が止まってるんじゃないか。その辺に配置されている「名無しキャラ」たちは物語開始時のまま能力が固定されてしまう。あとは決まったルーチンワークを繰り返す歯車となる。そこを、主要キャラたちがぐんぐん成長して追い抜いていく。そりゃあ出世もするだろう。異例の若さで大抜擢もされるだろう。その他の部分が完全に停滞しているんだから。
主人公の努力が星の巡りをも動かしてこれほどの成果を挙げるなら、史了あんちゃんの兄上あたりは本当に浮かばれない。科挙合格だけを追い求めてただひたすら勉強してきたのに弟に先を越され、あげく占い婆さんには「一生受からない」予言を投げられるという。神(作者)に愛されなかったばっかりに。
※浅田次郎さんは「冴えないモブを比較対象にして思いっきり主要キャラを持ち上げる」という手法をよく使うらしい。この兄上も比較用に配置されたキャラの1人なので、踏み台となって史了あんちゃんの凄さを際立たせられればそれで十分である。だからまぁ、この難癖は本当に難癖以外のなにものでもない。
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